元葬儀屋の体験談


394 : ヘタレ葬儀屋 ◆fcEtU5f4EA :2013/11/13(水) 12:21:59.07 ID:WCenff2gi 
夜中の搬送係で起きた話 
搬送係は電話が鳴るまでは自宅待機。 
酒さえ飲まなければ自由である。
風呂に入って一服していると待機用携帯が鳴った。


先輩「一本入ったぞ。メモしろよ」 

俺「お疲れっす、ちょい待ちです。」
 
先輩「あー、密葬になりそうだからメモいいわw」 

俺「なんとなくわかりましたよ…(´・ω・`)」
 
先輩「じゃあ会館にFAX入れとくから地図と合わせて持って行け。あと首吊りな」
 
俺「はい…。」 

という事で、今回は単独引取りになります。



395 : ヘタレ葬儀屋 ◆fcEtU5f4EA :2013/11/13(水) 12:29:36.38 ID:WCenff2gi 
会館に立寄り枕飾り一式とドライアイス、 
念のため納体袋とゴム手袋を用意してから地図とFAX内容を確認する。 

(ん?ウィークリーマンションか?) 

繁華街に程近い雑居ビル群が再開発された地域のはず。どう見ても自宅や公園、山林ではない。
 
(初めての地域だな。身元不明みたいだし。) 

市からの要請で今回は引取りに向かう事になっていた。 

(面倒ごとは勘弁だわ、首吊りだけでも回収大変なのに…) 

ウダウダ言っても仕方ない、行くか…。



396 : ヘタレ葬儀屋 ◆fcEtU5f4EA :2013/11/13(水) 12:41:10.67 ID:WCenff2gi 
車を走らせ数十分、現場に到着した。 
場所は繁華街から筋二つ程入ったウィークリーマンションとは見えない程しっかりした造りのビルで、エントランスには自動演奏ピアノが置いてあった。 

(こんなとこで身元不明の首吊り?犯罪臭が半端ないんだか…。) 

取りあえず到着した旨を市の担当者に連絡し、エントランスまで迎えに降りてもらった。 
市の担当者はよゐこの有野そっくりで冴えない印象の関西弁だった。以下有野で。
 
有野「すんません、えらい早くきてもろたみたいで…」 

俺「構いませんよ、まだ検死中ですか?」 

有野「いや、検死は済んだんですがまだ検分が終わってないみたいなんですよ」 

俺「でも、犯罪性は低いから私を呼ばれたんでは…」 

有野「はぁそんなんですけどねぇ」 

(歯切れわるいな~吊りだけじゃないのかな?機材のチョイス間違えたか?) 

どのみち全て終わらないと中には入れないので外で煙草を吸いながら時間を潰していた。何故か有野も一緒に。 



406 : ヘタレ葬儀屋 ◆fcEtU5f4EA :2013/11/13(水) 17:26:49.37 ID:kODgMQJli 
警官「もう上がってもらっていいですよ」 

到着してから何本目かの煙草を消した時だった。 

俺「わかりました。有野さん行きましょう」 

有野「はぁ」 

(首吊りとか初めてなのかな、あまり期待しないでおこう) 

エレベーターを登りながら確認をする。 
お、流石に新しいビルだけあって棺用に凹みがあるな。 
最近のエレベーターは常識だが、人員搬送用のエレベーターには腰より下位に棺用に凹みがついているんだ。 
平常は腰板やカバーで見えないけどね。



408 : ヘタレ葬儀屋 ◆fcEtU5f4EA :2013/11/13(水) 18:02:53.81 ID:kODgMQJli 
現場に到着すると、まだ警官やマンションの管理人らしき人達が話をしていた。
 
俺「失礼しまーす○○会館の者ですが」 

管理人「はい、こちらです、宜しくお願いします」 

どれどれ…。 





はは、これは凄い。 
(馬鹿にしたわけじゃないよ) 

そこに横たわっているご遺体は、余りにも美しかったからだ。 
後にも先にも首吊りでこんなご遺体に出会ったことはない。 
それは正に神の子と呼ばれたイエスキリストの様に安らかに横たわっていた。 
(ちなみに俺は無信教、無神論者だ。) 

通常、首吊り死体の場合舌根が縄で締め上げられ、口から長いものなら胸元まで伸び、眼球と顔面の血液は行き場を失い腫れ上がり、飛び出す。 
神経が遮断された事により、内容物は全て垂れ流しとなり床や衣類はグチャグチャなのだ。
これは男女の差は一切ない。 
しかも最後の晩餐をした首吊りに至っては目も当てられないのが通常なのに…。 

彼は美しかった。



409 : ヘタレ葬儀屋 ◆fcEtU5f4EA :2013/11/13(水) 18:11:35.67 ID:kODgMQJli 
俺「あの、本当に首吊りですか?」
 
警官「我々も来た時に自殺の偽装を疑った位だよ」
 
俺「舌根も眼球も出てませんが…」 

警官「どうも無一文で衰弱していたようだね、吐瀉物や排泄物の一切がなかった」 

警官の話によると身元は確認できたらしく、詳細は語れないが身内はなく、事業に失敗して借金苦からの自殺らしい。 
衰弱して瀕死の状態、身体はほぼ骨と皮で髪の毛も長く伸びきっていた。 
縄から降ろされ、着衣を切られて寝かされた彼はそんな背景を感じさせない位に安らかな死に顔をしていた。



410 : ヘタレ葬儀屋 ◆fcEtU5f4EA :2013/11/13(水) 18:17:20.83 ID:kODgMQJli
(色々引っかかる処はあるけれど、これも仕事だ) 
合掌 


何故か納体袋に入って貰うには申し訳なくなり、急いで棺を取りに行き現場で納棺をしようと思った。 
本来、現場ですることはない。俺もこの一件以外で記憶がない。 
現場に立ち会った全員が快諾してくれた。 
本当に静かで厳かな納棺だった。 




終 



追記 
有野さんは警察の自殺鑑定を信じていなかった為、最後まで怪しんでいたからあんな態度だったようだ。



http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1383731440/